【怖い話・怪談】古い旅館の鏡に写った少女の怨霊が宿泊客に襲いかかる

ひっそりと佇むその古びた旅館には、数々の怪談が囁かれていた。中でも最も恐ろしいとされるのが、明治時代から途切れることなく伝えられる少女の怨霊の話である。

夜更け、廊下の奥に静かに光る一枚の鏡。訪れた宿泊客は何気なくその鏡に目をやる。だが、一緒に泊まるはずのない少女の姿が、自分の背後にぼんやりと映り込む。青白い顔、無表情、血走った瞳。その少女は、かつて旅館で惨事に遭い、亡くなったという。そして、彼女の怨念が今も鏡の中から宿泊客を覗いているのだという。

苦しみの深みから生まれた冷たい視線が、気配すら感じさせず後ろから忍び寄ってくる。宿泊客が異変に気付き恐怖に凍りつくと、鏡の少女は滲む影のように現実の世界へと這い出してくる。壁や床に響くその歩みは、彼女が生前に感じた痛みと悲しみで満ちている。

客は逃げようにも、無声の絶望と恐怖に身動きが取れず、少女のあの無邪気なはずの遊び声が今はどこか悲痛な叫びとなり、館中を響き渡る。誰もが鏡に映る少女の怨霊を見ることで始まる恐怖に満ちた夜。静寂の中、ふと身の回りで起こる何気ない物音にも、宿泊客は心臓を鷲掴みにされる。明かり一つたやすことなく、廊下を伝う冷たい風が、旅館の片隅で震える一つの存在を感じさせる。

何もなかったかのように静まり返るが、ただ一つ、鏡の前に置かれた赤い玉がけの人形だけが、床に転がっている。かつて少女が愛した、今は色あせたその人形が、過ぎ去った時とともに怨霊の証となって残されている。