【怖い話・心霊】流し雛の風習で見学した人に起こった恐ろしい災い
かつて、ある古い町で続いていた、不気味で奇妙な風習がありました。それは「流し雛」と呼ばれるもので、毎年春の訪れとともに、人形を川に流す行事でした。この風習は、悪霊や災いを人形に託して流し去ることで、町の安全と繁栄を祈るものだったのです。
とある年のこと、この風習に興味を持った一行の観光客が、その儀式を見学にやってきました。彼らは興味津々で、川辺に並べられた色とりどりの雛人形を眺めていました。その中には、古びた着物を着た、異様にリアルな人形も混ざっていたのです。一人の女性がその人形に触れた瞬間、町の古老が慌てて彼女を引き止めました。
「その人形には触れてはならん！」古老は声を震わせて警告しました。しかし、観光客たちはその言葉を笑い飛ばし、写真を撮り続けました。
その夜、観光客たちは町の小さな旅館に泊まりました。一人の男性が廊下の突き当たりに立つ女性の姿を見たと語りました。その女性は、まるで流し雛の儀式で見た古い着物を着た人形のようだったと言うのです。しかし、他の人には誰も見えなかった。
翌日、町を散策していた観光客たちは、不吉な出来事に遭遇し始めました。一人が急に転んで足をくじいたり、別の一人が財布を紛失したり。小さな出来事ながら、彼らにとっては明らかに異常なことでした。夕暮れ時、彼らは再び川辺を訪れました。そこで彼らは、その朝に流されたはずの人形が、岸辺に戻っているのを見つけました。その中には、触れられたあの古びた着物の人形も含まれていました。
「これは…まさか…」一人の女性が震える声でつぶやきました。夜が深まるにつれ、彼らの周囲で起こる現象はますます奇怪になっていきました。ドアが勝手に開いたり、窓から奇妙な物音が聞こえたり。一番衝撃的だったのは、深夜、全員が同じ悪夢を見たことでした。夢の中で、彼らは川辺に立ち尽くし、無数の人形が水面を覆う様子を見ていました。
翌朝、旅館の主人が彼らに町の昔話を語りました。流し雛の風習は、ただの祭りではなく、古い呪いを封じ込めるための儀式だったのです。その呪いは、かつて町を苦しめた悪霊のもので、人形に封じ込められて川に流されることで、町を守っていたと言うのです。
観光客たちは恐怖に震えながらも、その話を耳にしました。旅館の主人は続けて、「流された人形に触れた者は、呪いを引き寄せる」と警告しました。これを聞いた女性観光客は、顔面蒼白になりました。彼女があの人形に触れたことが、今起きている不幸の連鎖の原因だったのです。
その日の夜、一行は旅館に戻る途中で、再び川辺に立ち寄りました。不安に駆られた彼らは、何か解決策を見つけようと必死でした。川面を見つめていると、水面が奇妙に揺れ、一つの人形が浮かび上がってきました。それは触れられたあの人形だったのです。その瞬間、周囲の空気が一変し、冷たい風が吹き抜けました。
「私たちを追いかけてきたのね…」女性が震える声で言いました。人形の目は、まるで生きているかのように彼らを見つめていました。彼らは人形を元の場所に戻すことを決意しましたが、その時、町の古老が現れました。
「もう手遅れじゃ。その人形は、一度触れられたら、元の呪いを解くことはできん。」古老は彼らに言いました。しかし、彼らは諦めず、古老に解決策を求めました。
「唯一の方法は…」古老はためらいながら、「新たな人形を作り、それに呪いを移すのじゃ。しかし、そのためには大きな代償が必要になる。」と告げました。
代償とは、彼らの一人が町に残り、新たな守護者となることだったのです。この選択に直面し、彼らは悩み苦しみました。最終的に、触れた女性が自ら志願しました。彼女は町に留まり、新たな守護者となることを決意しました。
残りの観光客たちは重い心を抱えながら町を後にしました。彼らが去った後、町には再び平和が戻りましたが、その代償はあまりにも大きなものでした。町の外れには、新しい守護者となった女性の姿を模した人形が静かに佇み、来る者を警告しているかのように川を見下ろしていました。
こうして、流し雛の風習は続き、町の人々は今もその呪いと共に生きています。触れてはならないものの存在を知らずに、何も知らない観光客たちが今もこの町を訪れるのです。そして、彼らの中にはまた、この不思議で恐ろしい風習に足を踏み入れる者が出るかもしれません。その時、新たな物語がまた始まるのです。
