【怖い話・怪談】補陀落渡海で亡くなった男性の恐るべき呪縛
補陀落渡海の荒波に呑まれ、海の藻屑と消えた男性がいた。彼の怨念は、渡海に失敗したことへの強烈な執着と成り果て、渡ることができぬ恨みを込めた呪縛へと変わったのだ。夜な夜な、海を望む家々にその怨念は忍び寄り、眠る者たちの夢枕に立つ。
不気味な声で囁くその姿は、かつての男性とは似ても似つかぬものへと変貌していた。深々と皺が刻まれた顔は、死後の苦しみを無言で物語る。目はなく、その空洞からは真っ黒な涙が絶え間なく流れ出ており、目撃した者にはその泥のような涙が脳裏から離れぬという。
彼を見た者は、翌日から不可解な出来事に見舞われる。家の中で突然物が倒れる、海に近づくと耳鳴りが止まぬ、海鳥の鳴き声がまるで悲鳴のように聞こえる。地元の漁師は、海に出たら必ず恐ろしい顔の亡霊を見ると語る。彼の呪いが臨む海では、魚は獲れず漁網はいつも空っぽだ。
かつてその男性を知る老婆が言うには、「彼の渡海の成功を願う心が、その執着となって我々を呪うのだ」と。だがその言葉を聞いた者は少なく、恐怖に怯えながらも、次々と海へと誘われるように消えていく。
補陀落渡海で亡くなった男性の恐るべき呪縛を知る者は、みな同じ願いを口にする。彼の魂がようやく極楽浄土へ渡れるその日まで、この海の呪いから逃れることができるようにと。しかし、その日が訪れるのかどうか、誰にも答えは出せぬままである。
