【怖い話・心霊】秩父湖の吊り橋で観光客を水に誘い込む亡霊
秩父湖のほとりにかかる古い吊り橋は、地元では不気味な噂の対象となっていた。言い伝えによると、その橋で亡霊が観光客を水に誘い込むという。
「ねえ、本当に亡霊が出るの?」友人の声に震えが混じっていた。僕もまた、恐怖と好奇心が入り混じる心境だった。
湖畔に到着したのは日没直後だった。薄暗くなった湖面には、吊り橋が静かに映っている。橋を渡るにつれ、湖水がゆらゆらと揺れる音だけが耳に響いた。
「ここがその吊り橋か…」友人が小声で言う。橋の中央に差し掛かると、ふと湖面に人影が映った。
「あれ、見て!」友人が指差す方向に、水面に浮かぶ人影があった。その影は、湖面に映る月明かりに照らされ、幽かに輝いている。
「誰かが…水にいる…」僕の声が震えた。その影はゆっくりと動き、まるで水の中から僕たちを呼び寄せているようだった。
友人は恐怖に怯えながらも、その影に近づいていった。僕は彼を止めようとしたが、彼の足取りは止まらない。まるで何かに引き寄せられているかのようだった。
「待って!近づくな!」僕が叫んでも、友人は聞こえないかのように前進し続けた。その時、亡霊らしき影が突如として湖面から浮上し、友人の方へ手を伸ばした。
友人はついに橋の端に到達し、そこで立ち止まった。亡霊の姿ははっきりと見えないが、その存在感は圧倒的だった。
「来て…」という声が、水面から聞こえる。その声は切なく、哀れみを誘うようだった。
僕は必死に友人を引き戻そうとしたが、彼はまるで呪われたかのように動かない。その時、亡霊の姿がゆらりと消え、友人の意識も同時に戻った。
「どうしてここにいるの…?」友人が混乱している。僕たちは急いで橋を渡り、湖畔へ戻った。
地元の人々から聞いた話によると、数年前に湖で不慮の事故があり、その後から湖面には亡霊が現れるようになったという。その亡霊は、自分と同じ運命を他の人々にも与えようとしているのかもしれない。
秩父湖の吊り橋での出来事は、僕たちに深い恐怖を植え付けた。あの亡霊の声と、友人が見せた異様な行動は、僕たちに湖の深い悲しみを感じさせ、二度とそこを訪れることはなかった。それは、湖の静けさの中に潜む悲劇の影を思い起こさせる出来事だった。
その夜以降、僕たちはしばらくその湖を訪れることはなかった。しかし、その体験は僕たちの心に深く刻まれ、時折夢にも現れるほどだった。
秩父湖の吊り橋で目撃した亡霊は、僕たちにただの怖い話以上のものを伝えていたように思えた。それは、忘れ去られた魂の叫びであり、生者への警告だったのかもしれない。