【怖い話・怪談】ある地域にある夜に近づいてはいけない川の伝説

忌まわしき伝承が息づくその場所は、昼下がりでも人影が絶え、老いた桜の木々が傍らで静かに時を刻んでいる。川面に映る月の光が揺れる夜、薄ら寒い風が人の心を通り抜けると、その川には忘れがたい哀しみが満ちているという。

地元の人々は語る。かつてこの川の畔で起きた出来事が、不吉な伝説の発端となった。美しい娘が恋に破れ、絶望のうちに川へ身を投げたという悲話がそのひとつだ。彼女の霊は成仏せず、恋人を待ち続けていると伝えられている。

夜ごとに彼女の悲鳴が聞こえるとか、たまには月明かりのもと踊る影が見えるなどの噂が後を絶たない。ある者は恋人を呼ぶ娘の声に導かれ、そのまま行方不明となったとさえ噂される。川の深部は闇に飲み込まれ、水面下は決して見えない。そこには恐ろしい何かが潜んでいるかのようだ。

日が沈み、夜の帳が下りると、ごく普通の川の姿は忽然として恐怖の場所へと変貌する。月光が水面を照らし出すも、どこか歪んだ不気味な光景。冷たい水音が周囲の静けさを侵し続ける。滾る思いに駆られ、ともすれば足を踏み入れようとするが、地元の警告を思い出し踵を返す者も少なくない。

夜の川には近づいてはならない。そこにはただの水ではなく、人々の恐れを映し出す鏡がある。沈黙の中で生まれる哀しむ声に耳を傾ける者は、二度と昼の光を見ることはないだろう。