【怖い話・怪談】旅館の宿泊で夜に体験した恐怖の足音
深夜、古びた旅館の一室で、私は目を覚ました。薄暗い部屋の中、時計の針は三時を指している。静寂が心地よいはずの夜中だが、今夜はなぜか血液の流れる音さえ聞こえるようだった。
ふと、廊下から微かな足音が聞こえはじめる。最初は遠く、しかし徐々に近づいてくる。普段なら宿泊客かと思うところだが、今宵は違った。何故なら旅館は貸し切り、他の客はいないはずである。
息を殺し耳を澄ますと、足音の特徴が変わってくることに気づく。不規則で、片足を引きずるような鈍い音。恐怖がじわりと背筋を這ってくる。
突然、足音が止む。ドアのすぐ外、誰かが立っている気配。心臓の鼓動が高鳴り、絨毯に落ちそうな汗をぬぐう。しかしドアは開かれるどころか、重い沈黙が訪れるだけだった。
数分という永遠を経て、再び足音が聞こえてくる。しかし、今度は離れていく方向へ。ほっとした安堵とともに、この旅館にまつわる噂を思い出す。かつてここに宿泊した者が夜中に消え、彼の足音だけが旅館に残ったという。
朝になり、陽の光が部屋に差し込んだとき、私はようやく眠りにつくことができた。しかし翌朝、目覚めてみても、宿泊した恐怖の足音は忘れることができずにいる。旅館の静けさが、今や不気味な響きを持って、私の心に残り続けるのだった。