【怖い話・怪談】神社の神主の悪口を言いふらしていた町の人間に起こった悲劇
深い森に囲まれた古びた神社、その境内では常に静寂があたり一面を覆っていた。神主は老齢ながら厳格で、村の掟を守ることに余念がなかったが、村人からの評判は決して良くはなかった。陰で噂話が絶えず、神主の悪口がそこかしこで交わされていた。その不穏な空気がいつしか神々の怒りを買うとも知らず、彼らは日々、悪意に満ちた言葉を繰り返していた。
ある晩、神社の境内に奇怪な出来事が生じた。三日月が空にかかる寂しい夜、普段神妙な顔つきの狛犬が恐ろしい形相で牙を剥き出しにし、目は真っ赤に光り輝いていた。その翌朝、悪口を言いふらしていた町の一家が一夜にして忽然と姿を消した。
家は荒れ放題になり、中には血の跡も見つかっていた。唯一残された幼い娘だけが何があったのかを語ることができた。彼女によると、夜の静寂を破り、家の中には異様な音が響いたという。それは狛犬が唸る声のようでありながら、人の言葉を話すような不気味な囁きだった。
神社の神主への悪口は一切の影を潜め、村人たちは恐怖に怯えるようになった。次第に、悪口を言いふらした者が恐ろしい報いを受けるという話が伝説となり、村の外までその噂が広まっていった。それ以降、誰も神主に逆らうことはなくなり、神社にはかつてない敬虔な空気が満ちるようになった。
だが夜な夜な、境内から聞こえる狛犬の唸り声は今も尚、人々の世代を超えて語り継がれる恐怖の証となっている。
