【怖い話・怪談】あるアイドルを襲った熱烈なファンの恐怖の思念

舞台は、とあるアイドルのコンサート。会場は熱気に満ち、光が踊る中、彼女は歌っていた。無数の視線を一身に浴び、その笑顔はまるで太陽のよう。しかしその中に、異常なまでの執着を宿した眼差しが何組も存在した。

彼女のことを想うがあまり、社会から孤立してしまった一人の男がいた。彼の部屋は彼女のポスターで埋め尽くされ、壁一面には手書きのラブレターが貼られている。彼女に対する愛が狂気へと変わりつつあった。

コンサートの終わりに、男は楽屋裏に忍び込む。彼女が目の前に現れた瞬間、彼は異様なまでの緊張と興奮に包まれた。彼の手からこぼれ落ちたのは、使い古された人形。その人形には彼女の名前が何度も無残に刻み込まれていた。

次の瞬間、途切れ途切れの声で愛の告白が始まる。不器用で怯えた声が響きわたり、彼女に飛びつこうとしたその時、セキュリティが男を取り押さえた。彼女の表情からは笑顔が消え去り、青ざめてゆく。

後日、彼女はそのファンから届いた何百通もの手紙を見つけた。中には、切り取られた彼女の髪の毛、仕事場や自宅の近くで撮られた写真が同封されており、愛が狂気へと歪む様子が赤裸々に綴られていた。恐怖の思念が彼女の心を侵食し、アイドルとしてのキラメキを褪せさせていく。夜になると、誰がくれたか分からない花束が彼女の玄関先に現れる。そして彼女は知る、自分を常に見つめる眼差しがいまだに存在することを。逃れられない恐怖が、彼女をじわじわと追い詰めていった。