【怖い話・怪談】山に「おーい」と言うと恐ろしい言葉が返ってきた恐怖の体験

ある夏の終わり、山あいの静かな村での事。村人からは「山には近づくな」と忠告されていたものの、若い登山家はその言葉を無視し、冒険心から山へと踏み込んだ。木々に囲まれた山道は幽玄な雰囲気を漂わせており、足音だけが響く。ささやかな楽しみとして、彼は「おーい」と叫んでみた。普段ならば自分の声が反響してくるはずの山間に、しかし返ってきたのは予想外のことば。

彼は息を呑んだ。自分とは異なる、侘しげな声が「帰れ」と囁いたのだ。立ち尽くす彼の耳に、続けざまに不気味なささやきが届く。「邪魔だ...」「離れて...」。ささやきはどこからか聞こえてくる。どこか不自然で、人間のものとは思えない声。

恐怖は彼の足を鎖のように縛り、走り出すこともできなかった。ただただ黙って立ち尽くすしかない。山の奥深くから、次々と聞こえる声は、人のものではない何かのうめきに変わっていく。背筋を冷たいものが這う思いがした。

夜が迫るにつれ、彼は何とか動き出した。しかし、一歩踏み出すごとに、ささやきは大きくなる。彼を追い立てるように、あの声は聞こえてきた。「逃がさない...」。恐怖に駆られた彼は何とか山を下り、村に戻ることができたが、その後も彼の耳には、山から聞こえてきた恐ろしい囁きがこびりついて離れることはない。

山は静かに佇むが、あの晩の出来事を誰かに語ることはなかった。しかし今も、山へと足を踏み入れようとする者に対して、村人は警告を発する。「山には近づくな」。そして、その言葉を無視する者には、山が囁きかけるのだ。