【怖い話・怪談】ウミガメのスープの恐怖の呪い
海の家で働くアルバイトの若者がいた。ある晩、彼は閉店後にひとりで店内を掃除していた。だがその日は、何故か外の波の音がいつもよりも耳障りで、夜風が肌を刺すように冷たかった。
掃除をしていると、むせ返るような海藻の腐った匂いがどこからともなく漂い始めた。ふと彼は見た。厨房の片隅に忘れ去られたウミガメのスープが、まるで生き返ったかのように、わずかに波打ちながらくすぶっているのを。
恐る恐る近づいた彼は、スープの中から何かが動くのを目にした。そこには、小さなウミガメが生命を吹き返したかのように泳いでいたのだ。彼は呆然としながら、手を伸ばしてスープのカメに触れようとした瞬間、カメの口が突然裂け、無数の小さな歯が生えた異形の顎が彼の指を飲み込んだ。
苦痛と恐怖で叫び声を上げる彼をよそに、スープはますます活発に渦を巻き始めた。海藻の臭いは強烈となり、彼の意識は朦朧としていく。その時、波の音がすべてを飲み込むように轟き、海への使者であるかのようなウミガメの群れが、彼の目の前に立ちはだかった。それは彼への警告だったのか、それとも…。
翌朝、海の家はいつものように穏やかな波音を聞きながら営業を開始した。しかし前夜アルバイトをしていた若者の姿は、どこにも見当たらなかった。残されたウミガメのスープの器からは、何も知らないかのように静かに蒸気が立ち昇っていた。
