【怖い話・怪談】夜の海から聞こえてくる恐怖の少女の歌声

月明かりに照らされた海面は、昼間の澄んだ青さを失い、まるで深淵を覗き込むかのような漆黒に変わっていた。波の音が断続的に浜辺に打ち寄せる中、耳を疑うような少女の歌声が水面を這うようにして響き渡る。貝殻に口を当てた時のような、微かだが確かに存在する声。

その歌は古い言葉で綴られた悲しげなメロディ。詞の内容は愛する人の帰りをじっと海辺で待ち続ける娘の物語。だが、そこには結末がなく、ただ延々と待ち続ける絶望だけが込められている。

海岸に佇む人々の中には、恐怖に震える者もいる。夜の帳に飲まれた水平線を見つめながら、彼女の声に導かれてしまいそうな予感に戦慄する。伝説によれば、この歌は海に没した少女の霊が、忘れ形見の恋人を求めて発しているという。聞く者を深い悲しみに誘い込み、ときには海の謎に包まれた彼方へ誘う、不吉な歌声だ。

海辺の古い村では、この歌を聞いたときには耳を塞ぎ、急いで家路につくように言い伝えられており、その忠告を無視した者の多くが消息を絶つという話も密かに囁かれている。

夜の海は美しく、同時に謎めいた恐怖を秘めている。そんな海から聞こえてくる少女の歌声は、聴く者に未知なる怖れと切なさを享受させる。そしてあなたもその一人、歌の誘惑に抗えなくなりつつある。いつの間にか歌声が心に染み入り、少女の悲劇が身近なものとなっていく。海の深さは計り知れない。しかし、そこから響く歌声の恐ろしさもまた、同じく深く、人の心に静かに寄り添うようにその啓示を語り続けるのだ。