【怖い話・怪談】シロイルカを見た人に起こった恐怖体験の話
ある夏の夜、遊覧船で沖へ出た男がいた。海は穏やかで、月明かりが水面を照らし、まるで銀色の絨毯を敷き詰めたかのよう。しかし、その美しさと裏腹に、彼の遭遇する恐怖体験は語り継がれている。
夜中の海は静けさの中にも、何かが潜んでいるような不気味さを孕んでいた。そんな折、男は水面に現れた一つの影に目を奪われた。それは、通常見られないはずの白いイルカだった。現れるなり、突如として船の周囲を旋回し始める。白い姿が月光に映え、神秘的な美しさを放っていたが、同時に異様な気配も感じさせた。
次第にそのイルカは活動を激しくし、船を揺らし始める。男は初めの驚きを乗り越え、その美しい生物をただ見惚れていたが、ふと肝を冷やす思いが襲った。イルカの瞳に、何か人智を超えたものを見たのだ。ただの動物ではない何かが、白い肉体を借りて我々の世界を覗いている。
男がその場から逃れようとエンジンをかけたが、船は動かない。まるで海自体が彼をその場に留め置こうとするかのように。その時、彼の耳に小さな声が届いた。巧みな囁きが、男の心を侵食し、理性を狂わせていく。
夜が明けると、男は自宅で目覚めた。海へ行った記憶は鮮明だが、どうして家に戻ったのか、何があったのかを全く覚えていない。玄関には干したはずのない、濡れた足跡が残っていた。それがシロイルカを見た者に訪れる恐ろしい現象の始まりに過ぎなかったことは、その後の一連の出来事が物語っている。
