【怖い話・怪談】戦争で負けた平家の怨念が眠るある山の集落
ひそかにささやかれる言い伝えがある。戦乱の世を生き抜き、ついに敗れ去った平家。その壮絶な最期の地から離れた、とある山の奥深く、忘れ去られた集落が息づいている。
夜が訪れると、谷間に漂うかすかな雲霧が村を覆い隠し、あたかも過去の惨劇を目撃せず、厳しい現実から逃避するかのごとく。しかし、眠りに落ちると、平家の魂がさまよい歩き始めるのだ。長い白髪を振り乱し、古びた束帯を着た武士たちが、刀を引きずりながら村を徘徊する。
彼らは何を探し求めているのか。もしかすると、奪われた栄光、家族の愛、生前に戻りたいという切なる願望かもしれない。
隠された集落を訪れた者は語る。「夜中に見覚えのない老婆が、うめき声を上げて泣いていた。」気づけば、その老婆は消えうせ、夜風だけが遠吠えするように荒れ狂う。
この地にはあるべき時の流れが存在しないようだ。平氏の怨念が今も時を止め、悲しみと怒りを永遠に繰り返す。裏山からは時折、禍々しい気配を放つ古刀が見つかり、村の安寧を脅かしているという。
敗死した平家の怨霊が棲む山の集落は、訪れる者に霊妙な空気を感じさせ、決して心の準備ができていない者にはその全貌を見せない。しかし、意を決してその秘密に触れようとする勇敢な心を持つ者の耳にだけ、平家物語の最後の一節が、山の風に乗って語りかけてくるのだ。
